「ポリチカ」

 

音楽 と 政治。

この組み合わせを見るとたいていの人は、この二つに何の関係があろう、
と思うだろう。それは音楽は主に娯楽のためと捕えるからで、政治的な
意味合いがあると違和感があるのだろうけど、そもそも「政治」とは何を
意味するのかにもよる。その昔、ギリシャでは政治 (= Politica) とは、
「人を動かすアート」、つまり芸術としても知られていた。
そう考えると、音楽だって人を動かすアートではないか、
なるほど、その公式なら同じ秤にも乗せても良い訳だ。

「音楽によって世界は変わるか」
この問いはとても抽象的で、夢みがちに聞こえる命題だ。
音楽やアートを志す人は声高らかに「イエス」と言うだろうが、
殆どの人はちょっと考えてから「ノー」と言うだろう。
何故なら、音楽は世の中で起きていることを表現できても、
実際に人を組織して物事を変える力まではないだろう、と。

では、「音楽によって人は変わるか」
という質問には、そんな経験はある、と素直に答える人は沢山いるだろう。
メッセージのある曲、あるいは映画や本、何だって良いけれど、
誰かが時間をかけてつくった作品に感化されて
影響を受けることはごく自然なことだ。
また、「世界を変える」なんて大それたことに聞こえるなら、
「社会に影響を与える」と言い換えても良い。

先の問いを言い直そう、
「音楽によって価値観の変わった人が、その新しい価値観に基づいて、
社会に何らかの影響を与えることは可能か」 と。
これには「イエス」と気軽に言えるし、現に音楽カルチャーはそういう
「応援歌」の役割をたびたび果たしてきた。時代の影に隠れた事実
を社会全体に知らしめる、ジャーナリズムの格好の道具であったし、
同じ目線のコミュニケーションとしても大切なツールだ。
もちろん人が集まって純粋に音を楽しんで、
パーティーすることだって同じくらい、凄くパワフルなことだ。

* * *

音楽のつくり方は自由になった。
様々なソースが織りなすリズム、メロディー、そして言葉。
それらに加わる絵や映像。
これだけ自由な創作と発表の道具が与えられて、
僕たちはいったい何を表現しているんだろう。
世界を変える=人を動かす音楽、人の心に響く音楽というのは、
人が日々常々、潜在的に感じているところに直接訴えてくるものだ。
では人が日々常々何を感じているのかと言えば、
住んでいる場所、接している情報に直接関わってくる。
何を知った上で、何を大切と感じ、何を望むのか。
これらの要素は、まさにその人の人格とベクトルを定義付けるのであり、
生活のかたちを作っていく原動力だ。

果たして、
僕たちが消費している情報と、本当に大切な情報は、一致しているのだろうか。
普段の生活の範囲以外に「知る」必要があることや「知れる」ことは沢山あって、
問題意識が芽生えた所で、それをどうやって具現化するか、
そこで立ち止まってしまう。
しかし、変革の基盤は出来ている。
一昔前まで、情報を「与える」側と「受ける」側とが明確に分けられて
局部に集中していた発信源が、今やネットの進化によって分散され、
誰もが楽に実践している。人の数だけ意見があればこそ、
温度差や距離感による矛盾も対立も出てくるけれど、
違いを尊重した上で新しい価値観を見い出すことだってできる。
その潤滑油が、いろいろな周波数を整理して現実の再提唱をするアートだったりする。
またそういう行為によって、その時代や環境に適応した価値観の
新陳代謝がなされていくのだと思うし、特に今は、それが急激に、切実に求められている。
加速する資本主義と競争原理の世界では、個人の利益や便利を優先させるがために、
公共の道徳(=常識)が犠牲になっている。
その中で育っている子供たちは、どういう大人になっていくのだろう。

だが所詮、何が「良い」とか「悪い」とか一概に決めるのも難しい。
例えば、環境問題。自然がひどく汚れてきて、その環境に適応できずに
弱っていく人もいれば、生き残れるように強くなっていく人もいるだろう。
言ってしまえば自然界では、生き物が死ぬことにだって「良い」も「悪い」もないだろう。
それでも、人間のしていることは、いずれ人間に返ってくる。
それがいちばんシンプルな法則なのかもしれない。
まずは手を休めて、僕たちはいったい何をしているのか、
いつ何が返ってくるのかを 「知る」ことから始めた方が良いだろう。
話はそれからだ。

ここに書いていることは、お尻が割れてますよ、と言うくらいきわめて当たり前のことだ。
でもその当たり前を忘れていたり、知っていても無視している人が多い。
だから子供たちのためにも、何度でも言う必要がある。
そのためにも、いざという時には、音楽がひと役くらい買って出ても良いと思うのだ。

shing02

May 2006
「ALINE」 寄稿

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