三御仁告白ノ書(大和編)


序幕:
(道化師) さあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!そしてじっと座って聴いてごらん、さあみんなにお話があるよ!
この話の筋は、眼と心、心眼を分ち合ったた三人の御仁についてだ、、、。
彼等は果てし無き時代のなかで、時空を超えて、、これから始まる昔話を繰り広げるのである、、、
本当は秘密かもしれないのだが、君達だけにこっそり教えてあげよう、、、

第二幕:
(旅人) おお、なんと蒸し暑い日だ!きのうよりも、おとついよりも更に暑い!、、、
まだ名も知らぬこの国に辿り着くまで、幾つの山と川、森と平野をなだめるように抜けて来ただろうか?
そしてなんと、この町の広いことか!四方に広がる裾野は四季の衣を纏い、山々は壁と成り周りの街道までの道を封じている。
碁盤割りの町の中心には、どの角からも見える程の大きな丘があり、
その上には大層立派な白い城が建っている。その後光の射す構えたるや威厳あること!
繊細な設計と大胆な建築は他に類を見ないし、外国の講義や絵巻物でも見かけたことがないぞ、、、。
大通りを所狭しと行き交う町人達の表情には皆活気が漲っている。
何故に今の今までここの噂を耳にもしなかったのだろう?さてはここの文化をもっと探らねば、、、
それが私の真の目的でもある。早速、この官能的な下町と交わってみるとするか、、、。

第三幕:
(大工) ちょいとお姉さん、さっきあの建物について喋ってるのが聞こえちまったもんで、、、
(あのお城のこと?)その通り!
あの同じ丘には、梅雨を二回さかのぼれば、そりゃ綺麗なまっさらな丘があってな、
そこには民の衆が全身全霊で自然に感謝を捧げる場があったのさ。
町を一望できる素晴らしい眺で、一本の無花果の木の下で毎日祈りを捧げたもんだ。
毎朝毎晩、光が照らされて人々の目を開き、声を与えたもんだ。
ところが、ある日或いはある夜に、よそ者の一行が丘を訪れて、この町に投資をしようと企てやがった。
まず一人目は資本を提供してこの丘を飾ろうとし、祠が必要だと提案した。
二人目は木の実を食べた後に丘を拓くことを宣言し、この領地を治める偶像を造ることを定めた。
すると三人目がやって来て、像をお守りするようにと丘の上に城を建てることを命じ、
彼が計画を喋り終える前に四人目が下絵を広げ、紋章の付いた壁や門とを建て始め、
儲け口が欲しい浪人や農民を何処からか狩り出してきた。
そして今は見てみろい!おれ達のご先祖様が土に返り、安らかに眠っていた丘の上に奴等は城をおっ建て、
民の衆には富が回ってくると信じ込ませたのよ!
嗚呼、なんという無念!おれらにとって、
そして自然の掟を破って汚された産土神の土地にとって!

第四幕:
(道化師) 旅人は好奇心に囚われ、大工は後悔の怨に悩まされる。
彼等を導き、引き合わせる見えない糸とは何ぞや、ましてあのお城の中には、
不気味に光ると瓦の向こう側には、何が隠れているのだろうね?
もしかすると、しんがりに登場する役者が謎解きの鍵を握っているかもしれないね。
彼は商人だが、取引き、駆引きの世界を知り尽くしてるから、既に何かを知っているかも?

(商人) まったく役人共にはおれの臭え足を洗わせてやる!おれの牛に指一本でも触れてみろ、土饅頭を食わせてやる。
おれ?あっしは下町随一の闇市商人、お前さんのお袋には反物を、親父さんにはウニを売ってるよ。
商売繁盛、順風満帆だったさ、あの白い城が建つまでは!
今じゃ丘の上から民衆を見下ろし、城中は祈祷の代わりにお上の命令が幅をきかせてるとよ。
近いうちに貨幣という代物が商売の交換に使われ始めるそうで、おれ達には全くもって迷惑だ。
仁義を訴えていた者も、政という学問の偽善に落ちぶれちまったし、
ある筋から仕入れた情報じゃあ、新しい幕府も更に厳しい税を課すんだとよ。
でも大衆はそんなことも露知らず、眠っている赤子よりも無防備さ。

(旅人) すいません、あの城についてちょいとお尋ねしたいのですが?手前は東方から来た旅人、
この町の粋な文化について学びにきたものの、特にあの中央の丘に建つ城にすっかり魅せられてしまいまして!

(商人) ふん、おれは一介の商人だぜ。何も知らねえよ。

(旅人) しからば、お近付きの印に、この薬草の種を献上致そう。故郷秘伝のものだが、どうぞお受け取りくだされ。

(商人) そうかい、そうかい、こりゃ失敬!奴等の一味じゃねえのか、用心には及ばねえ!
それじゃあ、ひとつあの城について知っていることを教えてやろう、、、。

(旅人) なるほど、、、おぬしは鋭い知識をお持ちだ。ようやくこの国を訪れた理由を見つけれたような気がするぞ。

(大工) おい、お前らこんな混んだ通りで何見てんだ?まさか、あの罰当たりな建物に感心してるんじゃねえだろうな!

(商人) ふん、おれは違うね。

(旅人) おぬし、何かあの城についてご存知か?今はここで油を売っていただけなので、どうぞ、ひとつ話をお聞かせ願いたい。

(大工) そうかい、おれはただの下町の大工だが、ちょいと間をくれればこの界隈について興味深い話の種を聞かせてやろう。
まずおれは道具片手に壁や風景に魂を込めて歩き、感謝と慈悲の念を広めてるんだ、分かるかえ?
おれ達は心と魂を使って物を形にしてるんだ
。城っていうもんは城を造る石垣やしっくいが清い訳じゃなく、
城中の間で古来の神聖さを保ち、偽り無き者共が政を司るもんだ。
だがあの城はおれ達の手によって造られたもんじゃねえ。
贅沢に輝く天守閣を見ろい、本来の神聖さはとうの昔に失われ、真実は汚され、
おれ達の創作に流れてた生気もさっぱり鈍っちまった。
この国の城は国家を欠き、精神的な飢餓に苦しみ、体制と環境と地盤がすべて揺らいでるんだ!
お上が物質的な日光浴に没頭してりゃ、どうしてあの丘が神聖な間を分ち合う集いの場で有り得るかい?
お上の民衆の扱い方を見てみい!凶作で寺の鐘が不吉に鳴り響く間も、高級な酒を呑んで豪勢な飯を貪ってるんだ。
あん城は、か弱い民を抑えつけておく重石に過ぎねえんだ、、、。

(旅人)故郷の方言で言えば、おぬしとは言の波が合い申すな。
手前も余所者ですが、今さっきこちらの御仁から城について教わったことをお教え致そう、、、。

(大工) へん、おれは全く驚かないね!あの城は外っ面だけが立派で中身は空っぽで腐ってること位分かってたさ。

(商人) じゃあどうする?おれ達に何ができるってか?

(道化師) どうすれば良い、どうしたら良い?どうすれば良い、どうしたら良い?三人が頭を寄せ、話し合った。
三人が頭を寄せ、語り合った。すると何かが起きた、、、そして、しまいに三人は告白をしはじめる、、、

第五幕:
(大工) 白状しよう、おれはいつの日かご先祖様の丘を取り戻そうと企ててるんだ。
丘の麓で己の考えと道具を研き、城の権力を研究しながら計画を進めてきた。
今はあの通りの罰当たりなザマだ、、、無論、おいそれとはいかねえだろう、、、。
今までに何人もが袋小路さ、犯科に手を染めて御用になっちまった。
おれは大工だが言の葉で家屋を建てて、おれ達を毎日見下ろしている城が無意味であることを世間に知らしめてやりたい。
まず手始めに誠の芸術を抑圧する偶像を破壊し、罪深く軽蔑すべき城を取り壊し、その新地にいにしえの生命を新しく育もう。
その昔、とある賢い大工が言ったように、「父上の母屋で商いをするとは言語道断」だい。
おれは城が没落するまで手を休めんぞ、全ての民がこの間違いに感づくまで、大切な無花果の木が戻るまで、
柵も造らず、贅沢も忘れて、いにしえの種が限り無い精気を取り戻すまで、、、。
お二方、どうかおれと一緒に祈りを捧げてくれ。

(商人) この状況を引っ繰り返すには奇天烈な策が必要だな。その前におれにも白状させてくれ。
さっき言った情報筋というのは嘘で、城についての話も実はおれが潜り込んで掴んだもんなんだ。
おれは神酒を配る神主に変装して城に潜入した。そして城中では、闇に取り引きをしている輩をこの目で見て来た!
おれの使命は小判の山吹色よりも光ってる、民の衆を悪玉の手から、救わなければいけねえ。
人民が苦しまないためにも、終幕までに筋書きを書き換えなければ。
悪を阻止し、隠密に進行し、計画を実行し、城が崩れるまで!

(旅人) 私にも白状をする時が来たようだ。諸君、私の真の肩書きは東方の國の使節、白い城の実体を隠密に探りにきたのだ。
月六ツ前、私の國は白城の使者から取引の交渉を受け、正体を知らずに扉を開いてしまった。
その結果、今は昔の日々に戻れぬ程、民衆は混乱し、道を誤り、商売に目が眩んでいるのだ。
欲深き者は甘い蜜を吸い、腹黒い連中は裏で工作し、贅沢三昧の毎日、その上に汚い商売を続けている。
今は奴等が闇から権力を握っており、このまま國を滅ぼしてしまう前に、決起して阻止しなければならぬ。
今から何百年も経てば、多くの人民が国々の間を自由に通行し、交流を持つようになるに相違ない。
それには、次の世代が安全に通れるような手形を我々が保証しなければならぬ。
来るべき未来のためにも、力を合わせて神聖な国を築こうではないか。

(商人) 喜んで手を貸そう。それでは機が熟したとき、次の満月の夜に、この同じ場所にて落ち合おう。

(大工) おれも同じだ。そして今日ここで話し合った告白については、計画が陽の目を見るまでは他言無用だ。同志よ、身の御無事を。

(商人 / 旅人) 身の安全と魂の平穏を。

終幕:
(道化師) こうして三人の御仁は分かれ、来た道を戻るかのように、人混みの中に消え去っていった。
みんなは三人が計画を成し遂げるまでに、何回の満月が過ぎたと思う?
ほうら、今度はお天道さんが眠る番だ。わっぱ達、そろそろお家にお帰り。けれどおしまいに一つだけ教えてあげよう、、、
内緒のお話のなかにも、かならず美しい顔が見え隠れしているものですよ、、、
そしてほうら、今宵も満月の夜かしら?