「僕と核」2012

    第一部:アトムを追え

 

< ウラン、知ってる? >

被曝の原理を知るためには、核の動きを地中から体内まで追って行くことで、分かることが沢山あります。

放射性物質はどこからか産まれている訳ですから、元を辿って行けばウランと言う物質を燃やしていることが、全ての原因なのです。
話題になっているセシウムやヨウ素、ストロンチウム、プルトニウム、すべてウランから産まれています。

それでは、まずウランがどこから来て、どのような形で燃やされているのか、おさらいしてみましょう。

この全体像から、部分ごとに説明します。

 


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[ウランの生産]

ウランの原産地は、長年カナダ、オーストラリア、アフリカが主流でしたが、ここ数年でカザフスタンが急上昇して世界一の原産地になりました。日本の政府、電力会社、企業はすべてウラン鉱山に投資しています。ウランと言う資源に未来を見出して巨額の先行投資をしているからこそ、原子力発電と言う手段をそう簡単に見切ることは出来ないのです。

このレポートでは、原子力産業の商業的な部分がフォーカスではありませんが、経済的な後押しは決してあなどることはできません。

[ 一例として、東芝は2006年にウェスティングハウス社を5800億円で買収、10%をカザフスタンに売却、キズルクム社のウラン鉱山に数百億円投資。2010年に米ウラン濃縮企業USECに120億投資。東電、日銀と共にでカナダUranium One社と契約更新。Uranium One (30%) とカザフスタンのウラン大手Kazatomprom(カザトムプロム、30%)、日本の企業連合Energy Asia (40%)の共同出資であるキズルクムが所有しているKharasan-1プロジェクトは2005年に設立。Energy Asiaは東京電力、中部電力、東北電力、九州電力、丸紅、東芝からなる。]
 


[ウランの濃縮]

鉱石の中に数%から数割ほど含まれる天然ウランは、99%以上の割合でウラン238です。
(元素に付く数字は同位体=アイソトープ。同じ元素は核の中の「陽子」の数が同じで、「中性子」の数が変動することによって性質が変わる。)
この天然ウランの1%以下でウラン235が存在します。このウラン235が核分裂を起こすために、この割合を増やすこと=濃縮することによって核燃料や核兵器が作られます。

つまり、濃縮する技術は基本的に同じであるため、兵器級のウランを作ることも可能になり、国際的な脅威となっているのです。
最近ではイランの原子力プロジェクトが大きな焦点になっており、科学者が暗殺されることも未だに起きています。


 
[プルトニウムをつくるには]

核分裂が多くのエネルギーと熱を瞬間的に生み出せるのは、分裂する際に中性子が飛び出て、それが周りの核に命中することによって、連鎖が起きるからです。
この連鎖が保たれている状態のことを「臨界」と呼びます。
核分裂の生成物は、特に何の働きもしないので、ゴミとなります。このゴミに、現在我々が良く耳にするセシウム、ストロンチウム、ヨウ素などが含まれるのです。

さて、ウラン235の核分裂が起きている最中に、[
ウラン238]の方が中性子を吸収すると、いくつかのステップを経て、プルトニウムに変換されます。
プルトニウムの中でもPu239が核分裂を起こし易く、ウラン235よりも更に大きなエネルギーを産むことに注目した科学者たちが、軍事用にプルトニウムを生産することを決めたのです。

ウランの爆弾をつくるためにはウランを濃縮するだけで良いのですが、プルトニウムで爆弾をつくるためには、ウランをゆっくり燃やす原子炉でプルトニウムを「培養」する必要があったのです。
そして、 燃焼されたウラン燃料からプルトニウムを抽出する作業のことを「再処理」と呼びます。



 
 

ウランを燃料とする原子炉は、プルトニウムを製造するために第二次世界大戦中に開発された軍事用技術です。

原子炉にタービンを付けたものが原子力発電で、1950年代に初めて転用され「平和利用」と呼ばれた。

 

[再処理とMOX燃料]

商業用の原子炉では三年間燃やして1%のプルトニウムが含まれ、更にその半分がPu239です。
(その間に産まれたプルトニウムの半分は既に燃焼している)

この商業用の使用済燃料からプルトニウム(また他の再利用可能な金属)を取り出し、新しいMOX燃料を作ることを「核燃料サイクル」と呼んでいます。
U235の代わりにPu239を主に核分裂を起こす燃料は、「高速増殖炉」を念頭に生産されます。この技術ではウランの原子炉と同じ要領で、U238がプルトニウムに変換するのですが、プルトニウムが増える率の方が高く、半永久的に燃料が無くならない事を意味しています。高速増殖炉は、世界で安定した稼働は実現されていません。水に比べて「高速」で中性子を飛ばすための減速材であるナトリウム火災が「もんじゅ」で起きたり、トラブルが続いています。

そして、高速増殖炉が稼働していない苦肉の策として、MOX燃料を通常の「軽水炉」に投入することが実用化されてきました。福島第一原発の三号機には、MOX燃料が保管されていました。

 

[劣化ウラン]

天然ウランからU235を抜いた状態を劣化ウランと呼びます(結果、ほぼU238)。
この劣化ウランは、ウランの密度や重さの特性を生かし、貫通力の高い弾頭や弾丸、そして逆に防御性の高い戦車の装甲に使われて来ました。
初めて使われたのが第一次イラク戦争で、その後も、アフガニスタン、コソボ紛争、第二次イラク戦争でもふんだんに使われています。
ウランが燃焼することによって空気中に舞ったウランを含んだ粉塵を吸い込むことによって、また土壌や水に混入したことによって、敵味方を差別することなく、さまざまな健康障害が起きています。被害は戦場だけでなく、雨期に伴う近隣諸国や、劣化ウラン弾の演習などが問題視されています。

現在、劣化ウラン弾の使用を制限するように国連が求めているのですが、反対しているのがアメリカとイスラエルのみです。

 
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